ローザンヌの摂食障害予防の注意点

今年もローザンヌが終わりましたね。

さて、ローザンヌのヘルスポリシーについては以前(この記事で)書きました。

ヘルスポリシーとありますが、内容はほぼ全て摂食障害予防についてです。

そこで今回は、このローザンヌの摂食障害予防の良し悪しについてお話ししましょう。

 

ローザンヌのヘルスポリシーの利点

ローザンヌのヘルスポリシーが確立されたのは今から22年前、2000年です。

まだまだどこの団や学校もダンサーの体重を毎週計ったり、オーディションのエントリーに体重制限が平気で載せられているような時。

そんな時に、ローザンヌほどの大きなコンクールが

痩せることに執着して健康を損なってしまっては、その後プロとして必要なトレーニングについていくのはおろか、その他にもさまざまな悪影響を及ぼすことになる

と注意喚起をしたのは、バレエ界にいる人々に「踊れる身体=減量は正しくないのではないか?」と考えさせるきっかけになったことでしょう。

現に、摂食障害のスクリーニングを行ったり、摂食障害(まだ回復していない場合)であれば出場辞退を促したりするようになりました。

大きなバレエ団のスクールでは、10代(成長期)で成長が伸び悩んでいるダンサーにはレッスン量の調節をしたり、エネルギー摂取量を増やすように指導するなどして、相対的エネルギー不足を予防(もしくは早期改善)する動きも出てきました。

RED-Sの詳しい記事はこちらこちら

摂食障害の詳しい記事はこちらから(第1弾~第5弾まであります)。


ローザンヌのヘルスポリシーの利点というのは、

  • ダンサーに必要なのは痩せ細った身体ではなく、踊れる身体なのだ、ということに気づかせてくれる。

  • 拒食症(神経性やせ症または神経性無食欲症、すなわち anorexia nervosa (AN))の治療を後押ししてくれる。

この2つが大きいと私は思います。

摂食障害の死亡率は約5人に1人と、とてつもなく高いのです。早期治療は早期回復につながるし、それだけ死亡リスクも低減します。なので、ローザンヌが、摂食障害の治療をコンクールよりも優先させる姿勢をとるというのは、ダンサーの一生を考えてくれているからこそでしょう。

 

ローザンヌのヘルスポリシーの注意点

ただ、ローザンヌのヘルスポリシーにだって注意点、というか落ち度、があります。

それは、ステレオタイプな「痩せ細った拒食症」という、摂食障害の種類の中でも一番発生率の低いタイプにしか焦点を当てていないということです。

この記事でも書いているように、見るからに低体重なのだけが拒食症じゃない。

例えば20歳以下の有病率を見ると、摂食障害を患っている人の内、「見るからにやせ細った」拒食症は1%にも満たないのに対して、「普通」や「ぽっちゃり」と言われる体型で拒食症を患っている人は28%にも及びます。

ローザンヌの摂食障害のスクリーニングは、まず体重とBMIを使うため、やせ細った身体のダンサーにしか注意がいきません

これが、ローザンヌのヘルスポリシーの一番の難点だと私は思う。

低体重にならない摂食障害の方が遥に多いのに、それらを見落としてしまうということ。


そして、摂食障害の場合、やせ細っていないと深刻じゃない、という誤解が世間にあります。

摂食障害を患っていて、低体重ではない場合、「自分の摂食障害は深刻じゃないんだ。もっともっと頑張って(=摂食障害行動をとって)深刻にならないと(=痩せないと)、摂食障害だと認めてもらえない」と思うことがとてもよくあります。

悲しいですよね。

やせ細った身体の拒食症にしか焦点をあてていない摂食障害予防は、真の摂食障害予防にはならないのです。

 

ローザンヌは22年前にすごく勇気ある行動を起こしたと思う。

だからこそ、次はもっとホリスティックな摂食障害予防(ヘルスポリシー)へ改革してくれることを願っています。

 

Fumi

 

ローザンヌのヘルスポリシーはこちら(英語)

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ダンス・バレエ指導者の方々

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